相手を支配したり、コントロールしてはいけません‥

2024年05月30日

人に感情を伝えるときには注意してほしいことがあります。それは、「自分は相手を思い通りに動かそうとしているんだろうか?」、それとも「心から相手のためと思っているんだろうか?」と落ち着いて考えてみることです。すなわち、「人を自分の感情で操作しないようにすること、それが人間関係では大切なことです。

こんな話をするのも、過去にしょっちゅう感情を使って相手を支配したりコントロールしたりしようとすることをしている人が多いからです。これもまた、長年の間で身に着けてしまった悲しい習慣なのです。ここで、いくつかの例をあげてお話します。

「あなたの学校の成績が悪いとお母さんは悲しいわ‥」「部屋を片づけないと怒りますよ!」、もっときつい言い方もあります。「あなたには本当に失望させられたよ!」「あなたにはもううんざりよ!」

こういう言い方は<本当の感情>ではなく、<解釈や評価を含んだ感情>を表現しているので、それをしている限り自分の欲求をはっきりさせることも、また相手に伝えることもできません。

結局「私が不幸なのは、全部あなたのせいだ‥」ということになって、自分が幸せになるためには、相手に変わってもらわなければならないと考えてしまうのです。つまり、自分の幸不幸をすべて相手に委ねてしまうことになるのです。

自分が幸せになるかどうかが相手次第だなんて、果たしてそんなことをしてもいいのでしょうか?また、相手の感情もまったく理解していないのですから、相手との本当の出会い(相手と本当に心を通い合わせること)もできません。

では、ここで自分の感情で相手を支配しようとした<暴力的なコミュニケーション>の例と、そうではない例を同じ状況を使ってお話してみます。


暴力的なコミュニケーション‥

では、母親が子どもに部屋を片づけてほしいと伝えようとしている状況でお話します。 

「自分の物を片づけてくれないとお母さんは悲しいわ‥」、これは母親にとって次のことを意味します。

〇 誰かが片づけてくれたら嬉しい

〇 誰も片づけてくれないといつまでも悲しい

つまりこれは、自分を悲しませたままにしておくか、喜ばせるか、それを決める権限を人に与えてしまっていることになります。そしてその一方で、相手がこちらの望みと違うことをしたり、こちらが思っているのとは違うやり方をしたりするのを認めないことにもなります。

言い換えれば、愛情を振りかざして力ずくで相手の自由を奪っているようなものです。

こう言われた子どものほうはどうでしょうか?本当に納得するか、たまたまその時、母親と同じ整理整頓という欲求を持っているのではない限り、次の反応を示します。

① 「ああ、ママが悲しんでいる!このままほっといたらひと荒れしそうだ!ママには喜んでもらいたいから言うとおりにしよう!何で片づけなきゃいけないのかわからないし、本当はやりたくないんだけど、それでもいいや‥」

これは母親に次々と自分の行動を方向づけられた結果、自分の望みを無視して相手の望みに合わせて行動することばかり覚えてしまうケースです。

② 「絶対やるもんか!これは僕の問題なんだ!僕は自分のしたいことをするぞ!無理に片づけさせようったって、そうはいかないんだから‥」

これは母親に次々と自分の行動を方向づけられた結果、どんな言いつけにもすぐに反発し、決まって文句を言うようになるケースです。


暴力的ではないコミュニケーション

「ノートはテーブルの上だし、洋服は床の上ね(評価を下さず、自分の言いたいことを相手に示すための公正な観察)、困ったわ(感情)、これじゃご飯の用意ができないから、何とかしてもらいたいの(欲求)片づけてほしいんだけど、やってくれる?(具体的で話し合うことの可能な欲求)」

これならどうでしょう?母親が困っているのは、<満たされたい欲求があるから、子どものせいではない>ということがよくわかります。母親は自分の欲求をきちんと示して、困っているという感情を押しつけることなく子どもに伝えています。そしてその後で、話し合うことの可能な、相手に選択の自由を与える要求をしています。

また子どものほうも、母親の示した欲求と照らし合わせて、今自分が何をしたいのか、どうすればよいと思うのかを認識できますし、自分の行動を自由に決められるわけですから、こう答えることができます。

「いいよ、片づける!」、あるいは「嫌だよ、片づけはもうちょっと後でやりたいんだ‥」

もしかしたら皆さんはこんな会話が役に立つのだろうかと疑問に思うかもしれません。

そしてこう言うでしょう。「そんなことできっこない。だって、強く言わなかったら、何もしてもらえないんだもの‥」

それなら自分の心の中をのぞいて、次のことをよく確かめてみてください。

① 感情 ―― 自分の置かれた状況にうんざりしていないか?

② 欲求 ―― 相手の反発を買うやり方で、自分の欲求を伝えていないか?

もしこういう感情や欲求があるなら、このお話はきっと役立つはずです。

私がここで紹介している方法は、相手にも自分にも強制したりせず大切なことを分かち合い、理解し合うためのものですから。


感情による支配から、欲求による理解へ‥ 

自分が不愉快であるという感情を人にそのままぶつけるというのであれば、それは相手を支配することにつながります。反対に、本当の感情から自分を知り、穏やかに相手に伝えるなら、それは相手との相互理解につながります。

つまり、まず初めに<自分が本当に望んでいることを知り、自分の幸不幸を相手の責任にするのではなく、自分で責任を取れるようにする>。

それから次に、<相手の自由と責任を尊重しながら、自分が本当に望んでいることを相手に伝えるようにする>のです。

私はあるセミナーで、<相手に対する評価を含んだ感情>をぶつけることによって、夫とうまくいっていなかったという女性の話をすることがあります。その女性は、どうやらことあるごとに、ご主人にこう言っていたらしいのです。

「私はクタクタだわ!だって子どもたちの面倒を見てくれないじゃない!」、あるいは「こんなのうんざりよ!あなたがいつも家にいないなんて!」と。

ところがそれを聞いたご主人のほうは、奥さんの本当の感情、本当の欲求は別のところにあると感じたらしく、「本当に望んでいることを教えてくれ!」と言うのですが、そうすると「だから、家にいてもっと手伝ってほしいと言ってるでしょ!」、「でも、仕事があるから無理じゃないか。君は文句ばっかり言って!」という展開になってしまうということです。

これでは会話はうまくいきません。

この女性は「淋しい」という本当の感情、そしてそのもとにある「ご主人ともっと一緒の時間を過ごしたい」という欲求を認識することなく、相手に対する非難を含んだ感情をぶつけていたからです。

といっても、セミナーに参加してくださったお陰で、「今ではもうそんなことはありません。私は自分の本当の感情や欲求を認識して、自分の幸せに責任を持てるようになりました!」とおっしゃっていましたが‥